レビー小体型認知症は、脳の神経細胞にレビー小体という特殊なタンパク質が蓄積することで発症します。認知症全体に占める割合は4.3%です。
おもな症状として、手足の震えやこわばりなどのパーキンソン症状、実際にはないものが見える幻視、立ちくらみ・便秘・失禁などの自律神経症状が挙げられます。
レビー小体型認知症は、良いときと悪いときを繰り返しながら、徐々に進行することが特徴です。症状が急激に進んだ翌日には改善するようなケースがあり、発症に気付きにくいこともあります。
前頭側頭型認知症は、前頭葉や側頭葉の神経細胞が減少し、脳が萎縮することによって発症します。認知症全体の1.0%を占めます。
おもな特徴は、記憶力の低下よりも「抑制が利かなくなる」「自己中心的な行動が増える」といった性格の変化や言語障害が目立つことです。これは感情や行動をつかさどる前頭葉や、言語をつかさどる側頭葉に障害が生じるためです。
前頭側頭型認知症の症状は徐々に進行します。進行するにつれて、無気力・無関心の症状が強くなることもあります。
認知症の症状は、先述した4つの病気が直接引き起こす「中核症状」と、中核症状によるストレスや環境の変化、心理・身体的な要因などが原因で起きる二次的な「周辺症状(BPSD)」の、2種類に分けられます。認知症の正しい理解のために、それぞれの特徴を解説します。
中核症状は、アルツハイマー型をはじめとする4つの認知症により、脳の機能が低下することで起きる症状です。
中核症状は、ほとんどの認知症患者に共通して見られ、記憶障害(物忘れ)、見当識障害(時間や場所がわからない)、実行機能障害(計画を立てて行動できない)などを含みます。
これらの症状は、ゆっくりと進行する傾向があります。
周辺症状(BPSD)は、「Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia」の頭文字を取った略称で、行動・心理症状とも呼ばれます。
記憶障害や見当識障害といった認知症の中核症状から生じる不安や混乱、あるいは環境や人間関係による強いストレスなどが原因となって表れる二次的な症状です。
具体的には、抑うつ、妄想、幻覚、徘徊、暴言・暴力などがあり、これらの症状が出ると認知症が急激に悪化したように感じられることがあります。
認知症になった人が必ず発症するわけではありません。日頃から、BPSDを発症させないように対応することが重要です。発症した場合、完治は困難ですが、周囲の適切な理解やサポートがあれば、症状を緩和できる可能性があります。
認知症の進行は、一般的に前兆・初期・中期・末期の4つに分類されます。この進行段階を理解しておくことは、症状の悪化を判断する目安となり、症状に合った適切な対応を行うために役立ちます。
前兆の段階は、軽度認知障害(MCI)とも呼ばれ、認知症の一歩手前の状態です。日常生活に大きな支障はありませんが、物忘れが目立ち始めます。
この段階で早期発見して治療を始めることで、症状が改善したり、認知症への進行を遅らせたりすることが可能です。
初期では記憶障害が顕著になり、直前の出来事を忘れたり、日付や曜日がわからなくなったりします。また、好きなことへの興味・関心が薄れ、無気力になることもあります。
日常生活は問題なく送れる場合が多いものの、判断力の低下がみられるようになり、周囲のサポートが必要となる場面も多くなってきます。
中期では、記憶障害がさらに深刻化し、食事をしたこと自体を忘れてしまうなど、日常生活に大きな支障が出始めます。このため、家事や身の回りのことで、介助やサポートが必要になる場面が増えます。
また、中期は徘徊などの周辺症状が現れやすくなる時期です。
末期では、物事への興味や認識力が著しく低下します。初期や中期と比べて記憶障害が目立たなくなる代わりに、会話などのコミュニケーション自体が困難になります。失禁、嚥下障害、歩行障害などが進行するにつれて、ベッドで過ごす時間が増える傾向があり、生活全般の手厚いサポートが必要です。
認知症の進行を遅らせるには、中核症状にともなう周辺症状(BPSD)を発症させないことが重要です。
ここでは、周辺症状(BPSD)を防ぐための適切な対応や環境づくりなど、急激な悪化を防ぐ具体的な方法を解説します。
認知症の方への接し方では、ストレスを軽減し、信頼関係を築けるよう配慮することが大切です。
自尊心が傷つくような叱り方や、頭ごなしに否定するような態度は避けましょう。認知症の方は、起きたことそのものを忘れても、傷ついた感情は記憶に残るといわれています。
日常生活においても、ご本人ができることを尊重し、行動を過度に制限せず、必要最低限のサポートにとどめることが大切です。これにより、自己肯定感や意欲を保ちやすくなります。
また、居間に決まった席を用意するなど、安心できる居場所を作る配慮も、BPSD(周辺症状)の発症を防ぐことにつながります。
認知症の悪化を防ぐには、生活リズムを整えることも重要です。昼夜逆転は、ご本人の混乱を招くだけでなく、介護者にとっても大きな負担となります。
朝は日光を浴びてセロトニンの分泌を促し、日中に適度な運動を取り入れ、夜には質の良い睡眠をとりましょう。決まった時間に食事をとることも大切です。
規則正しい生活習慣は、ご本人の精神的な安定につながり、BPSD(周辺症状)の予防に役立ちます。
認知機能の維持・向上には、有酸素運動も効果的です。ウォーキングや水泳といった適度な有酸素運動は、脳への血流を増やして神経細胞を活性化させるため、認知機能を高める効果を期待できます。
ただし、ランニングや自転車のような強めの運動は、転倒などによるけがのリスクがあるため控えましょう。無理なく続けられる運動を習慣にすることが、認知症の急激な悪化を防ぐために効果的です。
人との交流を増やすことは、脳に良い刺激を与え、認知症の進行を遅らせることにつながります。
同居の家族だけでなく、デイサービスやショートステイなどを通して外部の人と会話する機会を持つことは、ご本人にとってほど良い刺激となるでしょう。
聴力が低下して会話がしづらい場合は、補聴器の導入を検討しましょう。コミュニケーションの質が改善され、社会とのつながりを保つ助けになります。
認知症の進行を遅らせるには、脳への適切な刺激が重要です。認知機能のトレーニングとしては、ぬり絵やパズルなど日常的に行える簡単な作業が挙げられます。
また、専門的な運動療法、作業療法、音楽療法なども効果的です。これらの療法は、デイサービスやリハビリセンターで提供されています。
施設で行うリハビリと自宅でできるトレーニングのどちらも積極的に取り入れ、脳を活性化させましょう。
認知症の症状が急激に悪化することはまれですが、変化に気付いたら速やかにかかりつけ医に相談することが大切です。早期の診断と治療は、ご本人の生活の質(QOL)向上につながります。なかには、薬の投与や外科的な処置で改善が期待できるケースもあります。
ご家族だけで悩みを抱え込まず、認知症専門医やケアマネジャーなど、専門家のサポートを受けましょう。地域包括支援センターや自治体の高齢者福祉課も相談窓口になります。迷わず、早めにご相談ください。