認知症にともなう心理面・行動面での症状は、「認知症の行動・心理症状(BPSD)」に分類されます。原因となる病気や本人の性格、周囲の環境などによって症状の表れ方が異なる点が大きな特徴です。以下では、認知症の行動・心理症状に該当する症状の具体例をまとめています。
【暴言や暴力】
感情のコントロールが難しくなり怒りや衝動を抑制できずに起こる
【不安やうつ】
認知症によりできないことが増え、自信喪失し気分が落ち込みやすくなることから起こる
【徘徊】
見当識障害の影響も重なり、不安から外出し歩き回ってしまう、あるいは外出した目的を忘れてしまい帰れなくなってしまう
【睡眠障害】
認知症によって体内時計が狂うなどといった影響により、寝つきが悪くなる、朝早く目が覚めてしまう
【幻覚や妄想】
認知機能の低下により、何もないところに人や物が見えたり、事実とは異なることを事実であると思い込んだりする
認知症は、原因となる病気によって表れる症状の種類や進行の仕方が異なります。以下では、おもな認知症の種類を3つ解説します。
アルツハイマー型認知症は、認知症全体の67.6%を占める病気です。脳内に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に破壊されることで発症します。
おもな症状は、同じ話や質問を繰り返したり、物を置いた場所や約束を忘れたりといった記憶障害です。また、今日の日付や居場所がわからなくなる見当識障害も多く見られます。
昔の出来事はよく覚えている一方で、最近の出来事を忘れやすい傾向にあり、軽度の物忘れから徐々に進行していく点も特徴です。
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がきっかけで発症するタイプです。アルツハイマー型に次いで多く、認知症全体の19.5%を占めています。
損傷を受けた脳の部位によって表れる症状が異なり、できることとできないことが混在する「まだら認知症」と呼ばれる状態になりやすい点が特徴です。また、アルツハイマー型認知症と合併して発症するケースもあり、この場合は「混合型認知症」と呼ばれます。
認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症だけではありません。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症なども代表として挙げられます。
レビー小体型認知症は、「レビー小体」と呼ばれるタンパク質の塊が脳に蓄積して発症し、実際にはないものが見える「幻視」や手の震え、筋肉のこわばりなどの症状を引き起こす点が特徴です。前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮する病気で、感情を抑制しにくくなったり、周囲が困惑するような言動が増えたりする変化が表れます。
いずれもアルツハイマー型・血管性型より発症の割合は低く、記憶障害よりも別の症状が目立つため、周囲が「認知症」と気付きにくい点に注意が必要です。
認知症患者の多くを占めるアルツハイマー型認知症や、レビー小体型認知症は、「変性性認知症」に分類される病気です。おもな原因は、脳の細胞や組織が変性し続ける点であり、現在の医療技術では根本的な治療が難しいとされています。そのため、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて進行を抑制することが治療の目標です。
一方で、正常圧水頭症や甲状腺機能低下症など、認知症とよく似た症状を引き起こす疾患も少なくありません。これらは治療によって症状が改善する可能性があります。気になる症状が見られる場合は、速やかに医師に相談して適切な治療を受けましょう。
認知症の治療法は、おもに「薬物療法」「非薬物療法」「手術」の3つです。ここでは、それぞれの治療法について解説します。
認知症の薬物療法は、症状を和らげる従来の薬と、原因物質に直接働きかける新薬に分類されます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
抗認知症薬には、記憶にかかわる神経伝達物質の分解を抑える「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」や神経細胞を保護する「NMDA受容体拮抗薬」などがあり、いずれも症状の進行を緩やかにする効果が期待されています。
また、不安や興奮、睡眠障害といった行動・心理症状(BPSD)に対しては、症状に応じて抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬などの向精神薬が処方されることもあるでしょう。
ただし、これらは症状を抑える対症療法であり、認知症の原因自体を取り除くものではありません。
レカネマブ・ドナネマブは、アルツハイマー型認知症の原因とされる「アミロイドβ」を脳内から除去する薬です。
処方対象は、アルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)や軽度のアルツハイマー型認知症の方に限られます。投与前にはMRI検査やアミロイドPET検査などを行い、適応があるかどうかを慎重に確認する必要があります。
また、脳の微小出血やむくみといった副作用が表れる可能性があるため、投与中も定期的な検査が不可欠です。効果と安全性の両面から、医師による適切な処方と経過観察が求められます。