認知症の治療は可能?具体的な症状と治療法


家族や自分自身が年齢を重ねるにつれて、物忘れが気になり「認知症」ではないかと不安になっている方も多いでしょう。また、認知症と診断された際に、どのようなケアをするべきか悩む声も聞かれます。

認知症の根本的な治療は難しいといわれますが、近年は新薬を含む進行を緩やかにする治療法がいくつか見られるようになりました。家族や自身が認知症になった際に速やかなサポートを行うには、適切な手段を事前に把握しておくことが大切です。

この記事では、認知症の症状や種類、根本治療が難しい理由を解説するとともに、治療法の種類や新薬の特徴、治療にかかる費用の目安なども紹介します。

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認知症の症状

認知症の症状は、大きく分けて認知機能の低下を主体とした「中核症状」と、中核症状にともなって起こる「認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」の2種類に分けられます。ここでは、それぞれの特徴を見ていきましょう。

中核症状

中核症状は、脳の病気によって脳細胞が損傷することで生じる認知機能の低下です。中核症状には記憶障害・理解や判断力の障害・言語障害・見当識障害・実行機能障害などがあります。それぞれの障害によって発現する具体的な症状は以下のとおりです。

【記憶障害】
・ 何度も同じことを話したり聞いたりしてしまう
・ 物の場所や約束を忘れてしまう
・ 薬を飲み忘れてしまう など

【理解や判断力の障害】
・ 同時に2つのことを行うのが困難になる
・ 思考速度が遅くなる
・ 予定外のできごとで混乱しやすくなる など

【言語障害】
・ 会話などで、適切な単語や言葉が出にくくなる
・ 相手の言葉を理解するのが難しくなる など

【見当識障害】
・ 現在の日時や居場所がわからなくなる
・ 季節に合わせた服装を選べない など

【実行機能障害】
・ 順序立てて物事に取り組むことが難しくなる
・ 家事や仕事の段取りが悪くなる など

認知症の行動・心理症状(BPSD)

認知症にともなう心理面・行動面での症状は、「認知症の行動・心理症状(BPSD)」に分類されます。原因となる病気や本人の性格、周囲の環境などによって症状の表れ方が異なる点が大きな特徴です。以下では、認知症の行動・心理症状に該当する症状の具体例をまとめています。


【暴言や暴力】
感情のコントロールが難しくなり怒りや衝動を抑制できずに起こる

【不安やうつ】
認知症によりできないことが増え、自信喪失し気分が落ち込みやすくなることから起こる

【徘徊】
見当識障害の影響も重なり、不安から外出し歩き回ってしまう、あるいは外出した目的を忘れてしまい帰れなくなってしまう

【睡眠障害】
認知症によって体内時計が狂うなどといった影響により、寝つきが悪くなる、朝早く目が覚めてしまう

【幻覚や妄想】
認知機能の低下により、何もないところに人や物が見えたり、事実とは異なることを事実であると思い込んだりする

認知症の3つの種類

 
認知症は、原因となる病気によって表れる症状の種類や進行の仕方が異なります。以下では、おもな認知症の種類を3つ解説します。

アルツハイマー型認知症

アルツハイマー型認知症は、認知症全体の67.6%を占める病気です。脳内に「アミロイドβ」という異常なタンパク質が蓄積し、神経細胞が徐々に破壊されることで発症します。

おもな症状は、同じ話や質問を繰り返したり、物を置いた場所や約束を忘れたりといった記憶障害です。また、今日の日付や居場所がわからなくなる見当識障害も多く見られます。

昔の出来事はよく覚えている一方で、最近の出来事を忘れやすい傾向にあり、軽度の物忘れから徐々に進行していく点も特徴です。

血管性認知症

血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳血管障害がきっかけで発症するタイプです。アルツハイマー型に次いで多く、認知症全体の19.5%を占めています。

損傷を受けた脳の部位によって表れる症状が異なり、できることとできないことが混在する「まだら認知症」と呼ばれる状態になりやすい点が特徴です。また、アルツハイマー型認知症と合併して発症するケースもあり、この場合は「混合型認知症」と呼ばれます。

そのほかの認知症(レビー小体型・前頭側頭型など)

認知症は、アルツハイマー型認知症や血管性認知症だけではありません。レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症なども代表として挙げられます。

レビー小体型認知症は、「レビー小体」と呼ばれるタンパク質の塊が脳に蓄積して発症し、実際にはないものが見える「幻視」や手の震え、筋肉のこわばりなどの症状を引き起こす点が特徴です。前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉や側頭葉が萎縮する病気で、感情を抑制しにくくなったり、周囲が困惑するような言動が増えたりする変化が表れます。

いずれもアルツハイマー型・血管性型より発症の割合は低く、記憶障害よりも別の症状が目立つため、周囲が「認知症」と気付きにくい点に注意が必要です。

認知症は治療できる?根本治療が難しい理由

認知症患者の多くを占めるアルツハイマー型認知症や、レビー小体型認知症は、「変性性認知症」に分類される病気です。おもな原因は、脳の細胞や組織が変性し続ける点であり、現在の医療技術では根本的な治療が難しいとされています。そのため、薬物療法と非薬物療法を組み合わせて進行を抑制することが治療の目標です。

一方で、正常圧水頭症や甲状腺機能低下症など、認知症とよく似た症状を引き起こす疾患も少なくありません。これらは治療によって症状が改善する可能性があります。気になる症状が見られる場合は、速やかに医師に相談して適切な治療を受けましょう。

認知症のおもな治療法3つ

認知症の治療法は、おもに「薬物療法」「非薬物療法」「手術」の3つです。ここでは、それぞれの治療法について解説します。

薬物療法|症状に応じて処方される治療薬

認知症の薬物療法は、症状を和らげる従来の薬と、原因物質に直接働きかける新薬に分類されます。それぞれの特徴は以下のとおりです。
  

症状を抑える薬(抗認知症薬・向精神薬)

抗認知症薬には、記憶にかかわる神経伝達物質の分解を抑える「アセチルコリンエステラーゼ阻害薬」や神経細胞を保護する「NMDA受容体拮抗薬」などがあり、いずれも症状の進行を緩やかにする効果が期待されています。

また、不安や興奮、睡眠障害といった行動・心理症状(BPSD)に対しては、症状に応じて抗うつ薬・抗不安薬・睡眠薬などの向精神薬が処方されることもあるでしょう。

ただし、これらは症状を抑える対症療法であり、認知症の原因自体を取り除くものではありません。

原因に働きかける新薬(レカネマブ・ドナネマブ)

レカネマブ・ドナネマブは、アルツハイマー型認知症の原因とされる「アミロイドβ」を脳内から除去する薬です。

処方対象は、アルツハイマー病によるMCI(軽度認知障害)や軽度のアルツハイマー型認知症の方に限られます。投与前にはMRI検査やアミロイドPET検査などを行い、適応があるかどうかを慎重に確認する必要があります。

また、脳の微小出血やむくみといった副作用が表れる可能性があるため、投与中も定期的な検査が不可欠です。効果と安全性の両面から、医師による適切な処方と経過観察が求められます。

非薬物療法|不安・意欲低下を和らげるケア

認知症の非薬物療法は、脳の活性化を促す効果があり、不安や無気力、うつなどの行動・心理症状(BPSD)を軽減する効果も期待されています。

代表的な非薬物療法は、「回想法」や「認知リハビリテーション」です。回想法は昔の記憶を思い出しながら人と会話し、記憶を共有することで認知機能の向上を図ります。認知リハビリテーションの場合は、麻雀などのゲームやパズル、計算ドリルなどを用いて認知機能の維持や回復を図る点が特徴です。

そのほか、ウォーキングや軽い運動の継続、犬や猫などの動物との触れ合いも、非薬物療法の一環として行われるケースがあります。

手術|根本原因を外科的に取り除く方法

慢性硬膜下血腫や正常圧水頭症、脳腫瘍などの疾患によって認知機能低下が引き起こされている場合は、脳外科手術が実施されるケースが一般的です。手術によって疾患の根本的な治療をすることで、認知機能低下の症状も回復する可能性があります。

認知症治療にかかる費用の目安

認知症治療にかかる費用は、投薬の種類や治療方法によって大きく変動します。厚生労働省が発表した「新医薬品一覧表」によると、2024年に保険適用されたドナネマブは、1瓶当たりの薬価が6万6,948円、1日当たりの薬価が8,560円でした。

ただし、これらは薬自体の価格であり、患者が実際に窓口で支払う金額ではありません。実際の自己負担額は、年齢や加入している医療保険の自己負担割合(1~3割)に応じて変化します。
なお、一カ月内に支払った医療費が自己負担限度額分を超えた場合は、高額療養費制度により、後日申請をすることで払い戻しを受けられます。

認知症の治療は長期にわたるケースも多く、万が一に備えて治療費の準備を整えておくと安心です。

認知症治療の相談・受診に役立つ施設

認知症の不安があるときは、各自治体に設置されている地域包括支援センターに相談するとよいでしょう。介護や医療に関するさまざまな相談に対応しており、必要に応じて適切な支援先を紹介してもらえます。

また、かかりつけ医や「もの忘れ外来」、認知症の診断・治療を専門に行う「認知症疾患医療センター」でも相談・受診が可能です。そのほか、対面での相談が難しい場合は、公益社団法人 認知症の人と家族の会が提供する電話相談を利用する方法もあります。

認知症治療を続けるためのポイント

患者本人や家族が無理なく認知症の治療を続けるためには、ポイントを押さえることが大切です。ここでは、心がけておきたい点を2つ紹介します。

薬物療法の場合

薬物療法を続けるポイントは、服用している薬の情報整理と、副作用や異常のチェックを行うことです。

高齢の場合、認知症だけでなく別の疾患があり、複数の医療機関にかかっているケースも珍しくありません。この場合、処方される薬の重複や、飲み合わせの悪化などのリスクが発生しやすいため注意が必要です。トラブルを避けるには、「お薬手帳」を活用し、病院や薬局で処方薬の情報を伝えられるようにしておくと安心でしょう。

また、万が一の副作用や異常に備えて、日頃から医師や薬剤師との信頼関係を構築しておくことも重要です。薬の飲み始めや変更時には、日付や時間、本人の様子などを記録しておき、医師や薬剤師と共有できるようにしておくとよいでしょう。

非薬物療法の場合

非薬物療法を続けるポイントは、本人に合った方法を実施することです。本人が嫌がる内容ではなく、意欲を持って楽しみながら、気軽に取り組めるプランを選ぶとよいでしょう。

また、無理をせず、現状に合ったものを選択することも重要です。本人や家族が頑張りすぎてしまうと、症状の進行によりできない行動が増えていく事実にショックを受けたり、ストレスを感じたりする恐れがあります。加えて、これまでできていた活動や療法が、次第に行えなくなっていくリスクもあるでしょう。

非薬物療法を行う際は、本人や家族の負担にならない程度のペースで、新しい方法を適宜取り入れながら進めるとスムーズです。もしくは、本人だけでなく、家族や周囲の人が一緒に行う工夫も役立つでしょう。

認知症の治療方法を理解して適切にケアしよう


アルツハイマー型認知症を中心とした「変性疾患」に分類される認知症は、根本的な治療法は確立されておらず、ほかの疾患による認知症と比べて治療が難しいと考える方も少なくありません。しかし、薬物療法や非薬物療法の継続により、症状の進行を抑えられる可能性があります。

治療を続けるには、服用中の薬の情報や副作用・異常の有無をチェックし、医療機関との信頼関係を構築することが重要です。非薬物療法の場合は、本人や家族が無理なく続けられる手段を選ぶとよいでしょう。

また、新薬の登場により治療の選択肢が広がった一方で、治療費の負担が増える可能性もあるため、早いうちから経済的な備えをしておくと安心です。

  

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菊池 大和[医師]

医療法人ONEきくち総合診療クリニック理事長・院長。地域密着の総合診療かかりつけ医として、内科から整形外科、アレルギー科や心療内科など、ほぼすべての診療科目を扱っている。日本の医療体制や課題についての書籍出版もしており、活動が評価され2024年11月にTIMEアジア版に掲載される。

資格:日本慢性期医療協会総合診療認定医・日本医師会認定健康スポーツ医・認知症サポート医・身体障害者福祉法指定医(呼吸器)・厚生労働省初期臨床研修指導医・神奈川県難病指定医 など

公開日:2026年9月16日

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