認知症の症状は、大きく分けて認知機能の低下を主体とした「中核症状」と中核症状が存在することによっておこる「認知症の行動・心理症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)」の2種類に分けられます。
中核症状
【記憶障害】
・ 何度も同じことを話したり聞いたりしてしまう
・ 物の場所や約束を忘れてしまう
・ 薬を飲み忘れてしまう など
【理解・判断力の障害】
・ 同時に2つのことを行うのが困難になる
・ 思考速度が遅くなる
・ 予定外のできごとで混乱しやすくなる など
【言語障害】
・ 会話などで、適切な単語や言葉が出にくくなる
・ 相手の言葉を理解するのが難しくなる など
【見当識障害】
・ 現在の日時や居場所がわからなくなる
・ 季節に合わせた服装を選べない など
【実行機能障害】
・ 順序立てて物事に取り組むことが難しくなる
・ 家事や仕事の段取りが悪くなる など
*関連記事:認知症の中核症状とは?あらわれる障害や対応策
認知症の行動・心理症状(BPSD)
【暴言や暴力】
感情のコントロールが難しくなり怒りや衝動を抑制できずに起こる
【不安やうつ】
認知症によりできないことが増え、自信喪失し気分が落ち込みやすくなることから起こる
【徘徊】
見当識障害の影響も重なり、不安から外出し歩き回ってしまう、あるいは外出した目的を忘れてしまい帰れなくなってしまう
【睡眠障害】
認知症によって体内時計が狂うなどといった影響により、寝つきが悪くなる、朝早く目が覚めてしまう
【幻覚や妄想】
認知機能の低下により、何もないところに人や物が見えたり、事実とは異なることを事実であると思い込んだりする
認知症は治療できる?根本治療が難しい認知症
ここからは、治療が期待できる認知症に似た疾患と治療が難しい認知症について、それぞれの種類や特徴を解説します。
認知症と間違われやすい疾患の種類
加えて、自己免疫疾患や呼吸器・肝臓・腎臓の疾患、神経感染症、処方薬の薬剤による影響で認知症のような症状が発現する場合があります。
これらの症状は、手術や不足物質の体内への補充などで治療および症状の改善することがあります。処方薬の影響が疑われる場合は、まずかかりつけ医へ相談しましょう。
治療が難しい認知症の種類
これらの疾患の根本的な治療方法は現在確立されていないため、薬などによって症状の進行を抑制することが治療の目標となります。
認知症の治療法は大きく分けて3つ
薬物療法
抗認知症薬は「認知機能改善薬」とも呼ばれ、おもにコリンエステラーゼ阻害薬やNMDA受容体拮抗剤などが該当します。これらの薬は、根本的な治療が難しい認知症の進行を抑える効果が期待できるのが特徴です。
例えば、コリンエステラーゼ阻害薬は、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症における中核症状の進行抑制に用いられます。アセチルコリンとは脳内での記憶保持や集中、覚醒といった作用を担う神経伝達物質です。コリンエステラーゼ阻害薬は、このアセチルコリンがコリンエステラーゼという酵素により分解されるのを抑制し、情報伝達をスムーズにするとされています。
NMDA受容体拮抗剤の場合は、脳内の興奮性の神経伝達物質である「グルタミン酸」の作用を弱める効果があります。これによって過剰な興奮による脳神経の損傷を抑制し、中核症状の進行を抑えるのです。
行動・心理症状の軽減目的で使用されるその他の薬には、睡眠薬や抗精神病薬・抗不安薬などの向精神薬、抗てんかん薬、漢方薬などがあります。これらの薬は、不安や異常な興奮、睡眠障害など、患者それぞれの行動・心理状態に合わせて処方されます。
非薬物療法
代表的な非薬物療法には、「回想法」や「認知リハビリテーション」があります。回想法は昔の記憶を思い出しながら人と会話し、記憶を共有することで認知機能の向上を図ります。認知リハビリテーションの場合は、麻雀などのゲームやパズル、計算ドリルなどを用いて認知機能の維持や回復を図るのが特徴です。
その他、ウォーキングや軽い運動の継続、犬や猫などの動物と触れ合うことなども、非薬物療法の一環として行なわれるケースがあります。
手術
認知症治療を続けるためのポイント
薬物療法の場合
高齢の場合、認知症だけでなく他の疾患などで複数の医療機関にかかっているケースも珍しくありません。そのため、処方される薬の重複や、飲み合わせの悪化などのリスクが発生しやすいため注意が必要です。「お薬手帳」などを活用し、病院や薬局間で処方薬の情報を伝えられるようにしておくと良いでしょう。
また、万が一副作用や異常が見られた場合に備えて、医師や薬剤師との信頼関係を構築しておくことも重要です。薬の飲み始めや変更時に日付や時間、本人の様子などを記録しておき、医師や薬剤師と共有できるようにしておくのも有効でしょう。
非薬物療法の場合
また、「無理をしないこと」「現状に合ったものを選択すること」も重要です。本人や家族が無理に頑張りすぎてしまうと、認知症によりできないことが増えていく事実にショックを受けてしまったり、ストレスになってしまったりする恐れがあります。加えて、症状の進行により、これまでできていた活動や療法でも、次第に行えなくなっていく可能性もあります。
したがって、非薬物療法を取り入れる際は本人や家族が無理をしない程度のペースで、今の状態に合ったものを適宜新しく取り入れながら進めると良いでしょう。もしくは、本人だけでなく、家族など他の誰かが一緒に行うなどの工夫も重要となります。