【知っておきたい】認知症ケアの基本とポイント


家族が認知症と診断されると、今後どのように接すればよいのかと不安を覚えたり、どのようなことに気を付ければいいのかと悩んだりすることでしょう。

認知症ケアでは、認知機能の低下を抑えるだけでなく、患者の尊厳を守ることも大切なこととされています。認知症の方を適切にケアするためには、認知症を正しく理解して、基本的な対応や工夫の方法を知っておくことが有効です。

この記事では、認知症ケアの基本的な考え方と対応方法、認知症ケアを行なう際のポイントを具体例とともに解説します。

認知症ケアとは?

認知症ケアとは、認知症の方の尊厳を守りつつ、認知機能をこれ以上低下させないように症状や行動を把握して生活を支援することです。

厚生労働省では、認知症の方の「尊厳の保持」を認知症ケアの基本的な考え方として挙げています。認知症になっても尊厳や個性、それぞれの思いがあり、その人らしい生活を送れるように支えることが大切です。

認知症の方へのケアと聞くと、食事や入浴といった身体的なサポートを思い浮かべるかもしれません。しかし、その人らしく安心して暮らしてもらうためにも、心のケアも含めた幅広いサポートが大切とされています。

なぜ認知症ケアが必要?

認知症になると、記憶障害の影響により過去から現在、現在から未来をつなげられなくなる症状があります。覚えていないことや未来の予想ができないことへの不安を抱えているのです。

また、脳の働きの低下により、感情のコントロールも難しくなります。そのため、周囲から見るとちょっとしたことでも、感情的になって怒ったり泣いたりしてしまいます。

家族などの介護者にこういった認知症の理解が不足していると、無理に行動を抑制しようとしたり、怒ってしまったりと不適切な対応につながります。また、どう対応すればよいのかわからず、精神的な負担にもなりかねません。

そのため、介護者の負担を軽くするためには、認知症への理解を深め、適切な認知症ケアを行なうことが大切です。また、適切なケアの実現は、認知症の方が自身の不調や不安、ストレスなどに起因して暴言や暴力に及んだり、本来の元気がなくなったりする認知症の周辺症状(BPSD)の軽減にもつながるとされています。

認知症ケアの基本的な方法

認知症になると、約束を覚えていないことや、簡単なことでも時間がかかるといったことがあります。その際に、周囲が怒ったり責めてしまったりといった不適切な対応をすると、ストレスから認知症の周辺症状の悪化につながりかねません。

この章では、認知症ケアの基本的な方法を解説します。基本となるケアの方法を理解して、認知症の方と接する際には心がけるようにしましょう。

患者のペースに合わせて見守る

認知症の方の主体性を尊重し、着替えや家事、趣味など、本人ができることはやってもらうようにしましょう。ただし、理解力や判断力が低下していることもあるため、危険がないか見守ることが大切です。

見守る際には、動作がたとえゆっくりしていても急かさないようにします。認知症の方はペースを乱されると興奮しやすいため、本人のペースで進められるようにゆっくりと見守りましょう。

失敗や間違いを責めない

認知症の方の失敗や間違いに対して、頭ごなしに叱ったり訂正したりするとプライドを傷つけかねません。症状が進行していたとしても、自尊心は本人のなかに残っているのです。

失敗や間違った言動は、認知症の症状による機能の衰えが原因のこともあれば、理由があってのことの場合もあります。怒ったり子ども扱いしたりせずに本人の話にしっかりと耳を傾け、相手を尊重するかかわり方を心がけましょう。

わかりやく、簡潔に話す

認知症の方は、認知機能の低下により、話や言葉をすぐに理解できないことがあります。また、焦って早口で話したり一度に多くのことをと伝えたりしてしまうと、認知症の方を混乱させる可能性があります。

そのため、話すときはまず相手の視野に入り、ゆっくりと、理解しやすい言葉で話すようにしましょう。また、一度に複数の用件を伝えることは避け、一つひとつのことを簡潔に伝えるようにします。

スキンシップを頻繁に取る

スキンシップを嫌がらない方であれば、手を握ったり、背中をさすったりといったことも積極的に行ないましょう。スキンシップによる触れ合いは、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンが分泌され、ストレスや関節の痛みを軽減する効果があるといわれています。

ただし、触られることを嫌がる場合には、無理をせずこまめに声をかけるといった、認知症の方が孤独を感じないようにする工夫も大切です。

急な環境変化を避ける

引っ越しなどで違う場所に移り住む、人の多い場所に出かけるといった環境の変化は、認知症の方にとってストレスとなり、症状の悪化につながる可能性があります。もし、同居や介護施設への入居などで環境を変える必要があるときは、短期間の宿泊から始めるなど、少しずつ変化に慣れていけるように工夫しましょう。

認知症ケアをする際のポイント

この章では、認知症ケアを実践する際のポイントとして、日常生活における工夫や介護者が困りがちなシーンでの対応方法をご紹介します。

毎日の暮らしへの工夫

認知症ケアの基本的な方法にもあるとおり、危険がないことを見守りつつ、本人にやってもらうというのが理想です。しかし日々の生活のなかで、家族がずっと見守るのが難しいこともあるでしょう。

その際には、認知症の方が危険を避けて暮らせるような工夫も必要です。例えば、包丁や洗剤といったケガや誤飲につながる生活用品は、あらかじめ手の届かない場所に収納しておくとよいでしょう。

また、認知症による見当識障害では、「わからないから、やりたくない」という気持ちになることがあります。例えば、トイレの場所がわからないためにトイレに行かない、といった具合です。このケースでは、トイレの前に「トイレ」と大きく書いた紙を貼ったり、照明を明るくしたりして、トイレの場所をわかりやすくするといった対処がおすすめです。

自尊心を傷つけないように接する

認知症ケアでは、認知症の方の自尊心を傷つけないように、介護者は冷静な態度で接することが大切です。ここでは、ストレスやトラブルになりやすいシーンを例に、認知症の方の自尊心を傷つけない接し方を紹介します。認知症の症状や本人の気持ちを知り、落ち着いて対処するようにしましょう。

ただし、気になる症状があったり、暴れて対応が難しかったりするときには、無理せず専門家や医師に相談してください。

「ご飯はまだ?」と何度も聞かれる

食べたばかりなのに何度も食事を催促されるのは、介護者にとってストレスでしょう。しかし、「さっき食べましたよ」といった事実を伝えても、かえって反感を持たれかねません。

このようなケースでは、「もうすぐですよ、少し待っていてください」などと伝えて納得してもらい、待っているうちに忘れてもらう、というのも一つの方法です。待っている間に話題を変えたり、散歩などに誘ったりするのもおすすめです。

また、ちょっとした口寂しさが原因のこともあります。その方の好きなお菓子や果物などを少し食べてもらうと、機嫌が良くなり食事の要求が抑えられる、ということもあります。

家族である自分のこともわからなくなった

大切な家族である自分のことがわからなくなってしまったり、別の人に間違われてしまったりすると、ショックが大きいものです。時には怒りを感じることもあるでしょう。しかし、記憶がない以上は仕方のないことです。

もし、泥棒といった悪い人と勘違いして興奮しているようであれば、状況を複雑にしないためにも1回退室しましょう。一度姿を消してから、あらためて「こんにちは、〇〇です」というように現れて、正しく認識してもらうといった対処がおすすめです。

幻覚におびえている

何もないのに、「誰かが見ている」「幽霊がいる」などと騒ぐことがあります。このような場合には、本人の不安や恐怖といった気持ちに寄り添い、安心感を与えるような対処をしましょう。

例えば、別の部屋に一緒に避難してみたり、一緒に悪者を退治しようとしてみたりするのがおすすめです。「そばにいるので大丈夫ですよ」といった声かけもよいでしょう。大丈夫だという安心感を持ってもらい、本人の気持ちを落ち着けることが大切です。

「財布を盗まれた!」と騒ぐ

財布といった大切なものを盗まれた、と騒ぐことがあります。実際には、なくしてはいけないという気持ちから本人がしまったものの、しまったこと自体を忘れて、誰かが盗んだのではないかと疑っていることもあります。

犯人として疑われると否定したくなりますが、否定しても状況は悪化しかねません。こういった場合には、「困りましたね、一緒に探しますよ」と気持ちに寄り添い、探すのを手伝うのがおすすめです。

ただし、代わりに見つけてしまうと、犯人だから持っていると疑われることもあります。そのため、先に見つけてもそのままにしておき、「この中を確認してみましょうか」といって本人を誘導し、自身で見つけられるようにすることがコツです。そして、本人が見つけたときには、一緒に喜びを分かち合いましょう。

トイレを失敗してしまう

認知症の方がトイレを失敗すると、介護者は落ち込むことでしょう。しかし、認知症の方本人も自分の失敗にショックを受けているため、叱ったり責めたりすることで逆効果になることがあります。自尊心を傷つけないように、落ち着いて対処しましょう。

例えば、失禁したときには「ちょっと濡れていますね。新しい方が気持ちが良いので、替えましょうか」といった感じで平静な態度で話しかけましょう。また、トイレ掃除や汚れた下着の始末はさりげなく行なうようにします。その人の生活リズムから排泄のタイミングを見計らって、定期的にトイレに誘うのも効果的です。

介護する側のケアも忘れずに

認知症ケアを続けていくためには、介護する方自身のケアも大切です。ちょっとした息抜きの方法を見つけて気分転換したり、リラックスする時間を作ったりし、ストレスを解消するように心がけましょう。

また、精神的にも肉体的にも介護の負担を一人で抱え込まないようにするのも重要です。周囲の人に相談してみたり、デイサービスやショートステイ、訪問介護サービスを利用したりするなど、負担を減らす方法を見つけて活用しましょう。

認知症の方の気持ちを知って、寄り添う介護を


認知症を発症すると、以前と比べて人が変わったように思うこともがあるでしょう。しかし、認知症になったからといって本人の尊厳や個性が失われることはありません。認知症ケアでは、認知症の方の気持ちに寄り添って、本人の尊厳を守りながら安心して生活を送れるようにサポートすることが重要です。

一方で、認知症ケアは介護者の負担も大きいため、専門施設と協力して一人で抱え込まないようにしましょう。

 

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別府 拓紀[医師]

産業医科大学医学部卒業。初期臨床研修修了後、大学病院、市中病院、企業の専属産業医などを経て、現在は市中病院で地域の精神科医療に従事している。
資格: 精神保健指定医、精神科専門医、老年精神医学会専門医、認知症サポート医、臨床精神神経薬理学専門医、公認心理師、メンタルヘルス運動指導士、健康スポーツ医、産業医など

公開日:2023年8月23日

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